あゝ、これだ。
名を持たぬ震えが、延髄の奥で火を孕む。
忘却に晒され白濁した海馬が、
縫合を解かれるようにひらいてゆく。
あゝ、これだった。
疑うという機能だけが静かに壊死している。
また此処へ帰着してしまった。
意味以前の唾液と呼気だけで世界を舐め取っていた
あの頃の輪郭へ。
英雄の面構えを模倣しながら、
臍の緒を探しているにすぎない。
万象はわずかに鋭利だ。
すべての音程が半音だけ吊り上げられ、
現実は常に祝祭の一歩手前で軋んでいる。
なんという世界だ。
それでも私は、ここを故郷と呼んでしまう。